孝行をしたい時には・・・って言うけれど 

実家の母は2年前大病をしました。


病気が見つかった時は既にかなり進行していて、検査のために入院していた母の横にいた私を、担当の消化器科の医師が目配せで廊下に呼んだとき、「あ〜、嫌な話に違いない」と直感し、覚悟を決めた。
想像通り「99%悪性に間違いないでしょう。検査の結果が出たら外科の先生と相談してみます。もし外科の先生の判断で手術をしないとなったら、今後は首の下あたりから管を通して栄養を摂る事になります」と告げられた。担当医師の言っている意味がすぐにはよく理解できず、頭の中で反芻した後「それって口から食事をすることはもうできないということですか?」と尋ねると、優しそうな顔から「そうですね。そういうことです」と返事が返って来た。

「一生?」

「一生です」  

まぁそうなったら、一生と言っても、そんなに長い時間ではないだろうけれど。


母は旅行に行った先などで、美味しいものを食べるのが何よりも大好き(まぁ私の母だから・笑)。その母に、もう一生何も食べられないなんて残酷なこと、いったい誰が言えようか。病気自体を治す事ができなくても、せめて食べ物を通すための手術は出来ないのか医師に尋ねてみたら、そういう手術はしないとはっきり言われてしまった。
「そこを何とか。手術をお願いします」と頭を下げる私に、「こればかりは検査の結果次第です。神様にお願いするしかありません」と、華奢で長身の若い担当医が冷静な口調で言った。
今思い出すといつか見たドラマのワンシーンみたい。こんな辛い宣告が、色んな場所で毎日のように、現実には起こってるんだろうなぁ。


そう言われてしまったからにはもうしょうがない。「さぁ、まずはこれを父親にどう話そうか」と憂鬱になった。
父はこの時すでにガックリきていて、持病の腰痛も酷くなり、私の負担を倍増させてくれていた。こういう時、本当に男性は弱いなぁとつくづく思ったもの。ここで今の話をしたら、それこそ寝込んでしまいそう。でも話さないわけにはいかない。父に話すのは辛かったけれどお互い思いは同じ。何とか手術ができることを祈るばかり。特別な信仰があるわけではないので、正に苦しい時の神頼み。


その何日か後に外科の先生に呼ばれ、母と2人で話を聞きに行った。母は入院する時に自ら告知希望としていたので、既に自分の病名は知っていた。でも初めて担当医から聞いた時は相当ショックを受けたらしく、実家にいた私に泣きながら電話がかかってきたため、心配でまた病院まで戻り、母が落着くまで側にいたっけ。


にわか信者の願いが通じたのか、外科の先生はいともあっさり「うん。手術をしましょう。悪いところは切ってしまえば大丈夫」と、いかにも外科の先生らしくサバサバした口調で説明をしてくれた。
でもこれを聞いた時、心底ほっとした。神様、ありがとう〜って。母と手を取り合って喜んだ。

でも現実はそんなに簡単には行くはずもなく、その後何度も手術の説明を聞いたり、つらい検査がたくさんあった。



そして手術は無事成功した。転移があると予想し、大事をとって摘出したリンパ節も、病理検査の結果転移は見られず、不幸中の幸いだった。それでも術後は傷口が中々すっきりせず退院が延期されたし、その間病院までの往復2時間の道のりを毎日通って大変だったけど、あの日告げられた最悪の事を考えたら、手術が出来ただけでありがたく、文句を言ってはバチが当たる。


おかげさまで、母は今ではウソのように元気になり、胃自体もうないのにも関わらず、何でも美味しく食べている。人間て不思議だわ〜。
その後、検査は定期的に続けていたけれど、2年間は何事もなく過ぎた。


ところが先日、検査の結果内臓の一部に影が見つかり、更に詳しく検査する事になった。検査自体は大して痛くもかゆくもないんだけど、やたら時間がかかる。付き添ってても何もする事はないんだけれど、1人待っている父も心細いだろうと思い、私も一緒に付き添ってきた。
もしも再発だったりしたら…また手術?母のお腹の中はあれもこれも取ってしまっていて、既にもう空き空きなのに。


でもどこか楽天的な私は何の根拠もないのに、きっと大丈夫と思い込もうとしてた。
そして今日、その結果が出る日だった。
よりによって13日だし、金曜日だし。ついでにオカルトの日だし(笑)。ちょっと不安。最悪の場合は仕方がない。今、自分の出来る精一杯のことをするだけ。


そしてお昼前、母から「何でもなかった。大丈夫」と明るい声で電話があった。
あ〜、よかった。神様、本当に感謝します。
2年前も痛感したけど、こういうことがある度、健康でいられることのありがたさが身にしみる。今のうちに親孝行をしなければと決心する。でも元気だとどちらもつい忘れちゃうんだよね。また今日も思い出させてもらったなぁ。今度こそ忘れないで親孝行しなくちゃね。