本当に嬉しかったこと 


忘れないように書いておこうと思います。


次女は小学校5年生の頃から、教室に行くのが苦痛になっていました。でも教室に行けないことはあっても、保健室などにはとりあえず登校していましたし、自由参加の部活にも自分から望んで入り、放課後活動していました。そしてすべての行事にも参加できていたんです(だからなおのこと、何が嫌で教室に行けないのかわかりませんでした)。


この辺りの小学校は5年生の時に、2泊で行く「山の生活」という行事がありました。これは宿泊施設を使ってするキャンプみたいなもの。行事に参加できてるとはいえ、2泊もする行事には果たして参加できるかどうか、とても心配でした。でも何とか参加して欲しい。そんな願うような気持ちでいるとき、担任(女性)から保健の授業についての話がありました。初めてのお泊り行事とあって、出発前には恒例の保健の授業が必須らしいんです。
担任から「これはぜひ受けておいていただきたい授業なので、よかったらお母さんもご一緒にいかがでしょう」と提案され、娘も私が一緒なら参加するというので受けることにしました。

以下長いのでたたみます。




娘のクラスメイトの中に担任と保健室の先生以外、大人は私だけ。その状況に私自身かなり抵抗がありましたし、他の生徒たちの視線もとても気になりました。娘はイジメを受けていたわけではなかったけれど、「これがきっかけで、からかわれたりしないだろうか?」と思ったり。授業に参加するだけなのですが、正直自分もとても勇気が必要でした。でも娘のことを思えば参加するしかありません。


緊張しながら教室に入ったとたん、娘の友人たちが「○ちゃんのお母さ〜ん!」と笑顔で手を振って迎えてくれ、心配していたような好奇のまなざしにさらされることもなく、ちょっとホッとして一番後ろに作ってあった席につきました。すると私のすぐ前に座っていたS君から「今日はどうしたの?どうしているの?」と質問が。「今日はねぇ、授業参観。1人だけなんだけどね」と答えると、「そっか。特別授業参観だね」と笑ってくれたので、更にホッとした私。

保健の授業内容は、いわゆる性教育。男女が成長していくとどう違っていくのかをわかりやすく、保健室の養護教諭(女性)が大きな絵が書いてある教材を使いながら話してくれます。
そこで「男の人は胸毛だとかスネ毛だとかが、女の人よりも濃く生えたりしますよね」という話になった時、S君がすかさず私に、「ねぇねぇ、でもさぁ、胸毛とかがあっても頭が禿げてる人いるよね?あれはどうしてなんだろう?」と質問。
「ほんとだ。そうだよねぇ。どうしてなんだろう?S君てばすっごく良いところに気がついたよね」と答えると、S君はとっても嬉しそうに「でしょう?」と言って、元気よく「はいは〜い!」と手を上げて、先生にそのことを質問していました。

その後もS君は何かと後ろの私の方を向き、彼が疑問に思ったことを話してくれます。そのたび「ほんとだね〜」と言いながら感心して聞いていたんですけど、本当に彼の着眼点が子どもらしく、素直でおもしろかったんです。彼が後ろを振り向くたび、娘と顔を合わせて笑いました。そんな風に授業の間中、S君は私たち親子を楽しませてくれました(もちろん、そんなつもりではなかったんでしょうけれど)。

授業が終わって教室を出る準備をしていたら、「もう帰るの?」とS君。「うん。今日はもう帰るね」と言うと、「また来ればいいのに。また来てね」って言ってくれたんです。そのS君の言葉で、すごく救われた私がいました。「あぁ、私もここにいていいんだ」という自分の居場所が認められたような、そんな嬉しい気持ちになったんです。この一言が、その時の私には本当にありがたかった。「ありがとう。S君のおかげですごく楽しい授業だったよ。また来るね」と言って帰りました。


この嬉しかった気持ちを、機会があったらぜひS君のお母さんに伝えたいと思ったんですけど、S君のお母さんとは個人的にお付き合いもなく、「あの方かしら?」とお顔がぼんやり浮かぶくらい。なかなかお話する機会はめぐってきませんでした。
そしてやっとその時のことがお話できたのは、それから2年ほども経ってからのことでした。


そして参加できるかどうかを心配していた「山の生活」にも、娘は何とか参加することができました。あの時、授業に参加して本当によかったと今でも時々思い出します。本当にいい経験をさせてもらいました。

これも娘のおかげかも。