女の人生を垣間見たとき 

はてな☆のおかげで、子育て真っ最中の方や出産されたばかりの方、出産までカウントダウンの方(案ずるより産むが易しですよー)のダイアリーを読ませていただいている。
自分も経験してきたことだけど、もう遥か昔の出来事のようでもあり、ついこの前のことのようでもあって不思議な感覚。


今も忘れないのは次女がお腹にいた頃のこと。


確か8ヶ月に入っても逆子がなかなか直らず、薬で胎児を動きやすくする治療を受けることになった。
それは腕に血管注射をゆっくり時間をかけて打ち、その後2時間くらい(忘れた)ただただ安静にしているというもの。


当時通院していたのは、地元の大病院の産婦人科部長だった医師が開業したというこじんまりとした医院で、豪華でもオシャレでもなかったけれど、腕も人柄もとても評判が良かったためいつも混んでいた。
その日も空いている病室がなかったため(出産ばかりは予定通りにいかないしね)、急遽診察室の隣にある準備室で治療を受けることになった。
そこは医療器具のストックが並べられている棚と、ベッドが1つだけある殺風景な部屋。
先生にも看護婦さんたちにも「こんな部屋でごめんなさいね」と申し訳なさそうに言われたけど、私は全然気にならなかった…というか、関係者以外なかなか入ることもないだろう部屋なので、舞台裏というか楽屋みたいで興味深かった。


注射を20分くらいかけて打った後、看護婦さんに言われるままベッドで安静にしていたら、遠くの方から話し声のようなものが聞こえてきた。しばらくしてわかったのだけど、それは隣の診察室の会話だった。
ガランとした部屋に一人きりで横になっていると、薬のせいもあるのかだんだん眠くなる。そのぼんやりした頭の奥の方で先生と患者さんが会話している。
顔も見えない患者さんは、当然幸せそうな妊婦ばかりではなく、不妊治療で受診している人だったり、筋腫の患者さんだったり。
中には3度目の妊娠で受診し、過去の2度は事情があって産めなかったという人もいた。詳しいことは全然覚えてないけれど、今回も望んだ妊娠ではないような印象だった。


望んでも授からなかったり、望まないのに授かってしまったり、人生はどうして思うようにいかないのだろう。
ここにはいろんなドラマがあるのだなぁと、複雑な思いで横になっていた。産婦人科にはさまざまな女性の人生がある。



この時、以前読んだ曽野綾子の「神の汚れた手」を思い出していた。小さな産婦人科医院を舞台にした長編で、やはりさまざまな患者がやってくる。かなり衝撃的な症例もあった。
医療の世界は日進月歩。かなり前の作品なので、今なら治療法も随分変わっただろうと思う。


私の場合、何の苦労もなく希望通りに子どもにも恵まれたわけだけど、その数年後にはそれまでの人生の中で経験したことがないほど悩み苦しむ子育てが待っていようとは、この時はわかるはずもなく。
当たり前だけど人生って順風満帆にはいかないものだよね。


私が治療を終えた時、すでに外来の診察は終わっていたので、待合室に患者さんはいなかった。
そしてこの治療のおかげか、次の検診までに逆子は直っていた。



神の汚れた手(上) (文春文庫)

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神の汚れた手(下) (文春文庫)

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